受験浪人時代


 70年代のポップスやフォークソングの復刻版が、通販で販売されるCMをよく見る。私の青春時代とオーバーラップする。最近カバーされた曲がラジオから流れる。だがどこか馴染めない。

 当時、深夜放送が流行ていた。ラジオ魔であった私は、ながら族としてラジオは常に机の上に、或いは枕もとにあった。

 ある夜のこと! (国家試験の)受験勉強も本日分の区切れがついたので、タイマーをセットしてラジオを聞きながら床に着いた。まどろむなかで、「コーヒーショップの〜」高音の曲に目が覚めた。出だしは聞き損ねたが、2番、3番は確実に聴いた。当時私は大学をとうに出て青春時代の峠を越えつつあるも、未だに国家試験が受からず、志しとは裏腹に悶々とした憂鬱な日々を送っていた。そんななかで、この歌はコーラーのような爽やかな曲であり歌詞であった。聴くうちに学生時代に通った、御茶ノ水や白山、銀座、或いは富士見町の喫茶店が思い出された。それらはみな東京に出てからの思い出の喫茶店でもあった。「よし!この新曲を明日求めよう!」と決めてその夜は就寝した。

 翌朝、レコード店に赴き、おもむろにその屋の主に、
 私 「新曲だから未だ入荷がないかもしれないが、僕は曲目は知らん。歌詞が〜数々の青春を知っていた〜城跡の石段に〜というレコードありますか?」
 主 「うッ? おぅーい〇〇君!」と店員を呼び寄せる。店員が飛んで来た。
 主 「〇〇君、倉庫に『コーヒーショップで』あったかな?」
 店員「あるかも?」
 主 「見て来てくれ!」 店員は奥の倉庫に走る。
 やがて、「ありました!」と奥の方から持ってきた。

 私 「流石!東京だね。新曲が直ぐ入るんだ?」
 主 「お客さん!(馬鹿言ってんじゃねいぜと言わんばかりに)これは2年ぐらい前に流行った歌ですよ!」
 私 「えっ(そんな馬鹿な)?」

 この曲が、2年も前の昭和48年に流行った歌であることを初めて知った。大学を出て寝食も忘れて本を読んでいた頃の話である。手にしたジャケットには、ちょっと淋しげな潤んだ瞳をした歌手が映っていた。この人があべ静江か?

 それからというもの、「コーヒーショップで」の曲を何遍も何遍も聴いた。法律書に埋もれた僕の部屋にこの曲が潤いを与えた。

 私はあべ静江の「コーヒーショップで」にこだわる。なぜならば遠い青春時代の思い出でであるからだ。(2004/05/07 (金)) 

 あれから更に歳月が流れた・・・
 青春時代に研鑽した「法律的思考」が議員活動の今を支えている。真剣に正義とは何ぞやと反問し続けて、来る日も来る日も只、只、只管法律の書物を読んだ日々が懐かしい。共に答案練習会に通った友も天に召された・・・
 

2011/7/2記す。