輪廻転生



 「ヂュィ・ヂュィ」と軒先から孵化した雀の親を呼ぶ声が聞こえる。ヤスリがけをしているような鳴き声である。女房殿は「ヂュルルチュン・ヂュルルチュン」と聞こえると言うが、濁音交じりで親鳥を必死に呼んでいる。今年も我が家の軒下で雀が孵ったのだ・・・


 倅が小さい頃は、倅のための鯉幟と雀のためのミニ鯉幟を揚げたものだった(倅が成人した今、鯉幟を揚げることはしていない)・・・

 人として生まれた倅、雀として生まれた雛。然し、どちらも我が家の屋根の下に生まれた宿念を思うとき、雨風を共にしのぐ陋屋で生活するものである以上、この世に生を受けた奇縁に人も雀もなかった。生命の誕生に私は倅の節句と併せて雀の節句も、祝わずにはいられなかったのである。それほど倅の誕生が嬉しかった・・・

 倅の端午の節句を祝うまでは、雀は毎年我が家の軒下で小雀を育てていたこと気にも留めなかった。遥か以前からこの軒先に巣をかけることを、何代もの雀が受け継いで小雀を育てているのであろうが、選りによって我が家の軒先とは・・・

 ある年には、親雀が子育ての最中にアクシデントで死んでしまったこともあった。親鳥を求めて小雀が「ヂュィ・ヂュィ」の泣き声は、その日のうちに泣き止んだ(雛は死んだ)。私の心は痛んだものであった・・・

 番(つがい)の悲話は、かってこの欄に「雀の情愛にうたれて」(千曲のかなた・2005年6月22日付)として、したためたことがあるが、あのときの片割れが新しい番(つがい)を求めて子孫をつなぎ、屹度今日につながっているのと信じている・・・

 チュン・チュンと澄み切った囀りをする親雀!餌をねだって小雀が「ヂュィ・ヂュィ」と鳴く光景は、この時季の我が家の歳時記であり、北信濃に本格的な初夏が訪れることを知らしめる歳時記でもある。

 この時期、天敵から親雀と小雀を如何に守ってやるかと、私の仕事が増える・・・




2008/05/15 (木)