例大祭へ市長並びに議長が公務参列する意義についての一考察

               
「上高井招魂社」の例大祭に市長が公務で出席し、
公費を支出したとして、政教分離違反ではないか」について


市議会議員 佐藤 壽三郎


1.信教の自由と政教分離の原則について
憲法第20条を論ずるにあたって、政教分離原則とは、信教の自由の保を確保するための制度であることを念頭に置き、この制度の実現を図るために、

@ 当該行為の目的が世俗的目的を持つか否か。
A その行為が宗教を援助、助長、促進又は圧迫・干渉するものであるか否か。
B 国の行為と宗教との間に過度のかかわり合いがあるか否か。
の3点に留意しなければならないとされています。

本例大祭は、戦没者遺族の相互扶助、福祉の向上と英霊の顕彰を称えるもので、些かも宗教的性格を有しない専ら習俗的行事であることに鑑みるとき、前記の3点については、世俗的目的であり、その行為が宗教を援助、助長、促進又は圧迫・干渉を否定し、地方自治体としての行為と宗教との間に過度のかかわり合いがないものである以上、須高の市町村長、市町村議長がこの例大祭に参加することは、何ら違憲ではないと思料します。


2.「憲法89条公金支出は憲法違反ではないか」
この例大祭に参加した際に、須高の市町村長、市町村議会議長が懇親会(直会)の会食費を公費で支払ったことについて、「憲法89条公金支出は憲法違反ではないか」との指摘でありますが、当日納めた公金3千円は、玉串料ではなく、あくまでも例大祭の後に催される懇親会の会食費としての支出であります。

玉串料に関わる事案は、第20条3項、第89条前段に関わる問題として捉えます(第89条後段は「公の支配」に関わるものなので省かせて頂きます)。
第89条前段の趣旨は、そもそも公金支出によって、市町村と宗教上の組織が結び付くことを防止することで、第20条の保障する信教の自由及び政教分離原則を、第89条は財政面から確保しようとするものであり、具体的には憲法89条に「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」とするものです。

ところで本例大祭は、戦後70年を経るなかで戦前とは異なり、宗教的性格が希薄となり、専ら習俗的行事と化し、然も須坂市が主宰するものではありません。
例大祭の行事が行われた後に催される、懇親会への出席は、来賓として参列する慣行的な行為であり、この懇親会費を公金で支出したとしても、何ら憲法に違反するものではないと思料します。



《判例》政教分離原則に関わる裁判
〇津地鎮祭事件最高裁判決(最大判昭52.7.13)⇒合憲
〇殉職自衛官合祀訴訟最高裁判決(最判昭63.6.1)⇒合憲
〇岩手靖国訴訟第二審判決(仙台高判平3.1.10)⇒違憲
〇内閣総理大臣公式参拝訴訟(大阪高判平4.7.30)⇒違憲
〇箕面(みのお)忠魂碑・慰霊祭訴訟(最判平5.2.16)⇒合憲
〇愛媛玉串料訴訟事件最高裁判決(最大判平9.4.2)⇒違憲
〇即位の礼・大嘗(だいじょう)祭と政教分離の原則(最判平14.7.11)⇒合憲
〇総理大臣の靖国参拝による法的利益の侵害の有無(最判平18.6.23)
  ⇒この点の判断は行っていない。


【参考文献・憲法要論・清宮四郎:法文社、憲法T 清宮四郎、憲法U 宮澤俊義:有斐閣、憲法講義・小林直樹:東京大学出版会、憲法・橋本公亘、憲法・清水陸:中央大学、日本国憲法・宮沢俊義:日本評論社、憲法コンメンタール:日本評論社、デバイス憲法:早稲田経営出版、憲法T.憲法U:東京リーガルマインド、憲法判例百選(第三版)、憲法判例百選U(第6版):有斐閣、法学教室・U-4,U-8:有斐閣、公務員試験によく出る重要判例400:実務教育出版】


2019年9月29日