寒じる朝ほど小春日和



 北風小僧が繰出して北風が荒れ狂う様ではないが、北信濃は寒さが緊々(ひしひし)と感じる。恰も遥か蒼天から宇宙の主の振り撒く冷気が、静かに地表に覆いかぶさるような冷え込みである。

 四方の山並みは紅葉であるにも拘らず、光の射しようによっては蒼く変化する。

 北アルプスは、例えるならば当代一の歌舞伎の女形、坂東玉三郎のように艶やかに白化粧を終えた。越後の妙高山は隈取りをした団十郎か。やがて隈取りは雪に埋もれて、山一体が白一色に変化する。

 日本に雪女伝説はあるが、雪男伝説はない。高山(こうざん)の雪化粧は将に妖艶の世界でしかない。先達は雪山にロマンを感じていたのであろう。

 この高山の変化を見ること何十年ぞ。白山、芽吹き緑山、緑山、紅葉山そして白山と、山の容姿は七変化でする。しかしそのときどきの姿が、何れも絶景で飽きないものである。

 古の旭将軍木曽義仲が・・・武田信玄公が・・・上杉謙信公が・・・そして数多の信州の武将たちが、駒を進めながら眺めた山並み。信州に生まれこの地で一生を終えた数多の信州人が・・・。我が祖先も亦然り、屹度魅入ったであろう山並みが今も変わらず稜線を描く。

 少年時代には、この時期小学校の裏手の鎌田山(通称:かんだやま)に登ったものである。登るにつれて小学校の甍が、工場の屋上や煙突が眼下となり、やがて須坂の町並みの彼方に、刈り入れが済んだ井上、日野や豊洲の田圃が見渡せた。千曲川の川筋が恰も銀糸のように見える高さになると、善光寺平が一望できる頂に辿り着く。

 山頂からの眺望は、根子岳、八町山(妙徳山)、臥竜山・・・千曲を越えて、真っ白い山並み、戸隠、飯綱、黒姫、妙高、斑尾の五山は北信五岳、高社山、笠岳と志賀高原の山々、坂田山(明覚山)そして根子岳で360度となる。

 私はこの「真っ白い山並み」は外国の山だとばかり思っていた。周辺の山並みと山肌の白さが全く違うので、南極か朝鮮はたまたスイスがどこか外国の山と思って大きくなった。


2008/11/05 (水)