型破りと形なしの違い




随筆・終生書生気質編
■2008/11/19 (水)


 型を重んじる最たるものは、やはり能や歌舞伎の世界であろうか。家元制度によって支えられている芸事の世界は、流派の型を厳格に守ることに固執することに価値があるといえる。

 物心ついたころより、芸事を仕込まれる話は聞いていたが、狂言師野村萬斎氏の子息について、かって芸事に精進する一コマを視聴するに及んで、幼児だからといって見境なく、手厳しく所作の型を叩き込まれていた。これこそが彼が生れ落ちると同時に、背負わされた天命であり宿命といえる。これも亦人生といえる。

 先日のテレビで、歌舞伎役者・18代中村勘三郎氏がNEWS ZEROの村尾信尚キャスターとの対談で、心に残る言葉として「TBSラジオのこどもでんわ相談室に、こどもから架かって来た『型破りと形無しの違いは何ですか』の質問に、無着成恭先生がずばり答えられた内容です」と答えた。

 18代勘三郎氏が語るに「無着成恭先生は、基礎がしっかり出来ていて、そのうえで型やしがらみを打ち破ることが型破りで、基礎も何にも出来ていないのに、あれこれとやることを形無しと言うんだよと答えられた」と。

 18代勘三郎氏は、父17代勘三郎氏の厳しい指導の下に、歌舞伎の型の修行をとことんさせられ、所作を習得したればこそ、今は名実ともに歌舞伎界の大看板となり、型破りな歌舞伎を庶民に楽しませている。

 型破りの歌舞伎役者といえば、市川猿之助丈も亦然り。

 18代勘三郎が無着成恭先生の解かれる「型破りと形無し」の違いを、ラジオという無形の言の葉で綴られ、瞬時に消え去る時間と事象の狭間で、即座に相手の言わんとすることを理解しうるとすれば、彼は無着先生とこの瞬間は「竜知竜」の関係であったと言える。

 私は二十歳代に、新派役者である先代水谷八重子が愛弟子光本幸子に諭した「らしくとぶるの違い」を、ある雑誌で読んだことがあるが、心に残る言葉として、今日まで肝に銘じている。

 あなたにとって、「型破りと形無し」の違いは何でしょうか。




2008/11/25 (火)