信無き者は容赦なく断交すべし



 四十台前半のある日のことでした。
商談が済んで、さて次回会う日時を調整しまして、次回の期日を相手方A氏に念を押して、彼の面前で次回訪問日を帳面に記入しました。A氏は僕が念を押して記入しているのに、帳面に記入しませんでした。大丈夫かなと思いながら事務所を辞しました。

 約束の日時に訪ねると、いきなり相手から「日時が違う!」と詰られました。薮から棒のはなしです。僕の心配が当りました。しかし話して行くと、A氏は空覚えの日時を後日になって帳面に記入したこと。僕の日時が正しいことが話の辻褄から直ぐわかりましが、A氏は落ち度を認めませんでした。僕より年長で会ったこともあり、その場は「そうでしたか。」と断腸の思いで謝り、しかし、心が治まりません僕は、屈辱を受けた抵抗を示すため、彼の面前でわざと「帳面の記載してある日時」を訂正して暗黙の抗議をしました。なぜなら僕にとって、帳面は極めて信憑性の高い予定の書き込みであり、日時が過ぎたものはそのまま私の人生の真実の記録になるからです。決してメモ用紙の類いでは有りません。

 私はA氏との交友をその日から一切絶ちました。理由は、「その人に信なくして、その可なるを知らざるなり。」と評価したからです。A氏は後日、僕の友人に、「佐藤は、帳面の日時の表記を面前で直した。」と懐疑的に話したそうです。私の「暗黙の抗議」を斟酌できない器の持ち主だったことが分ります。
 
 あれから10年以上の歳月が流れました。その後のA氏は、主体性が無く他人様の能力にパラサイドした生き方に愛想を尽かされ、人々からいつしか見放されてしまい、商人としての信義を喪いました。訪ねる人も無くなられたとのことです。僕の訣別は正しかったと思えます。
2002/09/18 (水)