憲法で保障された請願について

請願者を参考人として、委員会に出頭させる手法はおかしい!

 かって、須坂市議会の議会活性化委員会で取り上げられた「参考人招致」について、私の疑問を取り纏めてみました。

 ご承知の通り、請願権は憲法(第16条)で保障された国民の権利であります。今日においては、国民は選挙や政党を通じて自己の意思を国政に反映させることが容易であること。更に表現の自由の保障により、国政参加の途が広く開かれていることもあって、請願権はその重要性を失っている向きもありますが、市議会には請願は議会毎にといって良いほど提出されます。



1)請願とは

 ここで請願権として確立するまでの、歴史的経過を知ることが大切です。言論の自由が確立していない時代に、君主の恩恵に期待してその救済を請い願うことに歴史的には由来します。明治憲法にも請願権の規定はありましたが、当時の請願は「統治権の総覧者たる地位の天皇が国民に恩恵的にそれを行うことを認めてやっていた程度の位置づけであり、請願を受ける側も、それを政策上に生かさねばならない義務まで負うものではなく、只「聞き置けばそれでいい」処置でした。

 現憲法第16条で保障する請願権とは、「国政に関する事項につき希望を述べる権利」であると定義されますが、国民の基本的人権の一つとして保障されたものであり、明治憲法下のような「国民に恩恵的にそれを行うことを認めてやってやる」哀願的なものではなく、旧法と異なって請願の対象、方法、内容などについての制限も排斥されている。更に、請願を受理した国家機関は「これを誠実に処理しなければならない」(請願法第5条)と法的な義務が課せられております。


2)市議会に提出された請願の対処ついて

 冒頭で記述しましたとおり、市議会にも定例会ごとに何件かの請願が提出されます。請願は書面によって提出されねばならない規定がありますが、この規定に些かの疑問を抱くようになり、次に疑問点をお示しいたします。

イ) 市議会への請願に対する紹介議員は必要か。

 議会規則では4名以内の紹介議員が必要であります。私は、議会規則の議員紹介は撤廃すべきと考えております。憲法で保障された権利を何人がこれを行使したいと思うときに、前述のとおり「旧法と異なって請願の対象、方法、内容などについての制限も排斥されている」ことを鑑みるときに、市議会が請願行為に議員紹介の要件を課することは憲法違反の恐れがあり、主権者たる国民(市民)の目線に立っていないのではないかと感じます。

 憲法は「何人」と国民の定義より広義であることを考えると、制約を設けることが必ずしも違憲とは言えないのであろうか。衆議院規則や参議院規則に倣って、地方議会への請願も議員の紹介を課しています(地方自治法第124条、125条)が、地方議会への請願はもっと門戸を開放すべきであると考えれば、国会への請願はさておいて、地方自治法は改正すべきです。



ロ) 請願者を委員会に出頭を求める手立ての疑義について。

 市議会に請願が提出されますと所管の常任委員会で審査することとなります。
この際、常任委員会の審査過程で願意が把握できないとき、あるいは審査に支障をきたす恐れがあるときは、議会は請願者を参考人制度を活用して議会に出頭して願意をお聞きすべしと、地方議会の解説書等に書いてありますが、これはおかしいと感じます。

 請願者が議会に請願書を提出する折に、@紹介議員が請願者と面談している筈であること。A請願者は書面作成段階で紹介議員なり議会事務局との事務折衝がなされて初めて請願が受理されていること等を勘案すれば、委員会審査の段階でも請願者に同席を求め、委員が直接に願意を聞取りすることは、決して違法でないと判断します。委員会での聞取りをするために、参考人制度を利用して請願者を呼び出さなくてはならない現行の運用に疑問を感じます。



ハ) 請願者は参考人と言えるか

 地方自治法第109条6項は、常任員会は「当該普通地方公共団体の事務に関する調査又は審査のため必要があると認めるときは、参考人の出頭を求め、その意見を聞くことができる」と規定があります。

 ここで「参考人とは」とはと定義しますと、「参考人とは委員会の審査、調査にあたり、当該審査、調査事件について、その者の経験した事実について陳述させるために出頭を求める関係人(一定の知識経験者又は利害関係人)のことをいう」と定義されています。


@ 私は、請願者は請願者であって、参考人とは法的に違うと思います。

A 地方自治法第124条、125条に議会に対する請願の取扱いの条文があります。地方自治法を制定した当時、法の制定者は、請願は書面により平穏に行うことから、請願された国民(市民)を議会に呼び出しをかけて直接問い質すことを想定しなかったのか、或いは請願者は当然に議会の要請があれば出頭して願意を述べることは当然である前提で、あえて条文を省いたのか分かりませんが、地方自治法には請願者の呼び出し条文がありません。私は、請願権の趣旨からして、後者であると解釈しております。

B 議会が請願者に願意を聞きたいときの手続の明文がないから、便宜的に参考人制度(地方自治法第109条6項)を準用しているなら理解しますが、Aで示した請願の項目には準用規定が見当たりません。参考人制度そのもの条文は地方自治法の内、第6章(議会)の第5節の委員会の項目に規定されているものであり、請願は第7節に別立て規定されていることを斟酌しても、参考人制度を請願人に適用することはおかしいと思います。

C 地方自治法第125条で「請願の採択」という規定がありますが、議会に提出された請願を、議会が「採択」か「不採択」の議決をすることは、憲法で保障された請願権の趣旨からして疑問を感じます。
 市議会への請願については、市長部局ほ所管部署に取次ぎをしてあげることはあっても、採択か不採択かとして議すること自体、憲法で保障する請願を歪めることとなると思うからです。

D 法で規定してある以上、議会として結論を下さねばなりません。請願の願意が時流や内容において、社会的に妥当か否か等を議員がどうしても判断や処置がおぼつかないときに、この参考人制度を活用すべきであると、解説書等に書いてありますが、解説書のどこにも「請願の採択」の是非が論じられていないことは、洵に残念なことであります。



3)地方分権時代の市議会の課題

 地方分権時代の須坂市議会が求められるのは、地方自治体の責任能力と危機管理であります。かっての如く、市職員が県庁の総務課や所管課に法解釈をその指導を仰ぐことでは済まされません。須坂市自身が須坂市なりの法律的な思考ができるか否かが、地方分権時代に生き残れる須坂であるかどうかです。

 多くの議員が、地方議会運用の解説書を妄信し、自ら法的思考をしようとしないことは事実ですが、憲法で保障された請願者と、議会が一つの結論を出すに一定の知識経験者又は利害関係人のご意見を拝聴したい趣旨の参考人とは、明らかに法的立場が違うことを認識して欲しいと思います。



【参考文献:基本法コンメンタール・憲法 /日本評論者。デバイス憲法/早稲田経営出版。憲法・橋本公宣 /中央大学。憲法・清水 睦 /中央大学】
                                     平成21年9月24日改訂1