納得の頷き


 幼い時分に毎日遊んだ幼馴染みのご尊父が亡くなられて、僕はお焼香に出かけました。

葬儀式場に入り、黙礼、焼香、そして遺族席に歩み寄りました。遺族席には実に37年振りではあるが、幼いときに毎日遊んだ見慣れた面々が居られました。本日の喪主を務めるおばちゃんは高齢になったこともあって椅子に座っていました。

  「おばちゃん! 壽三郎です。」
  「あッ! 壽三郎さん? 市議会議員の?」
  「そうです・・・元気を出してくださいね」

 37年の時間が一気にこのとき巻き戻された感がした。
 人間とは、不思議なものである。たとえ葬儀であっても咄嗟のときにとかく微笑んでしまう事がある。僕はこれを、ものを了解しえたときの『納得の頷き』と命名している。

 老婆は、相手が僕だとわかると微笑んだ。37年も会っていなくても通じる証である。喪主を務める息子も、五十を越えていると思うが、人間はこんなときになると、昔に返るものだろうか、幼い時の話ぶりになる。

 人の信頼は、時間の隔たりを感じない。否々、懐かしさの余りの所業かもしれない。 改めて故人の冥福を祈ろう。               合掌


2003/10/17 (金)