小鳥に教えられた「たいせつさ」


 8年前、息子が小学校5年生であった初夏のある日、学校の帰り道、巣から落ちたと思われる一匹のヒナを拾って来ました。黒い産毛は雀の子かなと思いました。餌付けが出来なければ、所詮は今日一日の命であると経験から感じました。然し、息子が15分もかかる道程を、両手で大事にヒナを抱えて来た優しさを思うと、女房殿は息子のためにも何とかして生かしてあげようと、鳥屋に駆け込み餌と食べさせ方を教わり、言われた餌を求めて来て、必死に世話しました。その甲裴あって餌付けは成功。やがて日が経つにつれて産毛が羽に変わり、鳴き声も変わりました。成鳥したら姿は雀ではなくカワラヒワでした。篭の鳥であっても、安全とは言えず、今までに3回ほど死に目に遭って、時には獣医さんの世話を受けたりもしましたが、天運があったのでしょうか、何れも天のご加護を頂いて命をつなぎ、もう足かけ8年も我が家で生きています。愛称は「ピヨ」と申します。いまや家族の一員と申せます。

 今回の選挙で、議会活動や議員活動を何にもしない議員の方が、選挙の結果は私より高得票を得ていることを思うとき、自分としては遣る瀬無さを感じました。「この4年間身を粉にして務めた議員活動は一体なんだったんだ」と感じました。今日は2期目の初登庁日、重い気持ちで家を出ようと靴を履こうとしたら、今は余り鳴かない時期なのに、ピヨの様子が尋常ではありません。私は何事かと足をとどめ、鳥篭のある玄関に座ってピヨの諌めを聞くことにしました。然し鳥は人の言葉を口にできないので、以下は私の憶測であります。

 「4年間の議会活動ご苦労様でした。首尾よく当選おめでとうございます。昔唐の国に屈原という博学で記憶力の優れた人がいました。政争に破れた彼は、努力をしないものが尊い位にあり、ごますり上手が志を得ている。賢・聖が疎んじられ、正しきものが体を逆さに吊るされた。世人は伯夷を貪欲だと決めつけ、盗跖を清廉だと讃えた。莫邪の宝剣を鈍いとし、鉛刀(なまくら)を鋭いとしたと嘆いていましたが、私も同感です。ご主人様、お天道様が見ておいでですぞ。きっと芽が出るから短慮をお起こしなさるな。ご主人様。真人は澹漠(たんばく)として平静をたもち、ただ独り道とともに憩うものですぞ」と、この小鳥がこの屋の主の一大事を感じて、鳴らぬ喉を鳴らして、いま将に玄関をでようとする私に、懸命に諌めてくれたのであります。

 小鳥までもが私をと思うと頭がさがり、いつしか小人(しょうじん)の心も鎮まり、この忠誠心のある小さな命に感謝をしました。そして私に投じてくださった800名の皆さんに頭(こうべ)を垂れて感謝申しあげ、期待を裏切らないような議員活動を為すことを誓い、2期目の初登庁をしました。


                                    
平成15年2月記す