北陸新幹線金沢延伸によせる期待 その1

                                須坂市議会議員  佐藤 壽三郎

1.行政視察の目的
 北陸新幹線は、平成26年度末に長野から金沢まで延伸され、更に平成37年度末までに金沢〜敦賀間が延伸される。更に大阪にまで延伸される壮大な計画がある。これは北陸新幹線が、「東海道新幹線の代替補完機能が求められている」からであるが、東日本大震災を契機に災害に強い国土づくりが求められているとともに、太平洋側では、東海地震等の発生も取り沙汰されている。

 北陸新幹線は、開業から40年以上が経過した東海道新幹線の代替補完機能を確保するためにも、北陸新幹線の大阪までのフル規格による全線整備が必要」(石川県企画振興部 新幹線・交通対策監室URLより転記)の実現化の下に整備されてきたものである。

 かって、信越本線は群馬県高崎市から上越線と分岐して、碓氷峠を越えて長野駅経由新潟県直江津駅(現・上越市)で北陸線と結ばれ、北陸と信越と関東を結ぶ大動脈を担っていたが、田中角栄総理大臣の「日本列島改造論」に端緒する全国をめぐらす新幹線構想で、北陸新幹線(長野新幹線)も計画にのせられた。その内東京・長野間は長野冬季オリンピックが1998年(平成10年)2月7日から開催されるに合わせて優先的に整備され、平成9年10月に開通された。このことにより在来線信越本線の横川・軽井沢間の碓氷峠は廃線となり、上野発の信越線経由北陸本線運行の金沢行は上越線に迂回運行とされ、長野〜軽井沢間はしなの鉄道としてJR東日本から切り離された。

 現在の長野⇔直江津間はJR東日本に留まるも、毎時朝夕の通勤時を除いて毎時1本の運行本数であり、且つ長野〜直江津間には快速、急行、特急が皆無となって、東信・北信地方は北陸地方との鉄路は極めて不便と言うより、寧ろ断たれたに等しい状態となっている。北陸新幹線の金沢延伸により、既に新幹線が運行されている長野県の東信、北信地域にとっては、一日も早い大阪までの延伸を期待するものである。

 今回の行政視察は、北陸新幹線の金沢延伸における関係する市を視察し、新幹線延伸に期待される産業の振興、観光の拡大、更に人的・物的な交流等について、新幹線延伸効果を共有するための、教えを請うことを行政視察の目的とする。


2.行政視察目的を達すための研修地先と視察テーマ
(1) 新潟県上越市。
1). 視察のテーマ:「北陸新幹線開通に伴う交流人口拡大への取組について。

 北陸新幹線は、東京を起点として長野、上越、富山、金沢、福井などの主要都市を経由し、大阪に至る延長約700kmの路線です。このうち、高崎〜長野間は、平成9年10月から営業運転されています。
 また、長野〜上越妙高間は平成10年3月に、上越妙高間〜富山間は平成13年5月に、富山〜金沢間は平成17年6月にそれぞれ着工し、平成26年度末の完成を目指し建設工事が進められています。
 福井駅部建設工事については、平成21年3月に完成しています。
 北陸新幹線の長野〜金沢間の開業に伴い、上越妙高〜東京間は最速で約1時間48分で結ばれ、また、北陸新幹線が全線開業すると、上越妙高〜新大阪間は、最速で約1時間52分で結ばれることが期待されます。(北陸新幹線開業・連携5市プロジェクトの資料から転記)

2). 視察の評価
ア)視察日・視察時間:
8月8日午前9時45分から概ね1時間30分
イ)視察場所:
上越市役所議会棟
ウ)説明員の表示:
上越市産業観光部 観光振興課 副課長 岡村 功 氏
     仝       観光企画係  係 長 竹内巨樹 氏
エ)研修内容:
○北陸新幹線開通に伴う交流人口拡大への取組として
 ◇北陸新幹線駅名を「上越妙高」と決定。
 ◇北陸新幹線の所要時間・運転の試算について。
 ◇北陸新幹線開業がもたらすチャンス等について。
 ◇新幹線新駅周辺整備について。
 ◇観光の取組(越五の国評価事業、上越市の観光振興計画外)について。
オ)研修のまとめ:
◇北陸新幹線が開通すると、長野⇔上越妙高間は僅か18分の所要時間である。上越の人々は、直江津(犀潟)から「ほくほく線」で上越新幹線の湯沢駅に出て、湯沢駅から上越新幹線で東京に出る。北陸新幹線が開通しても僅か17分の短縮でしかないが、然し前述の通り、長野へ18分、上田へ30分、軽井沢に50分と著しく短縮され、更に北陸地方の富山とは39分の短縮、金沢とは57分の短縮となり、北陸新幹線の開通はメリットが大きいとのことである。

◇信越16市町村(長野県関係:長野市、須坂市、中野市、飯山市、千曲市、山ノ内町、小布施町、信濃町、坂城町、小川村、高山村、飯綱町、野沢温泉村、木島平村。新潟県関係:妙高市、上越市)で広域連合による観光連携推進計画を示されたが、これは長野広域連合でも推進している。

カ) 視察から感じた須坂市の課題:
◇長野駅から信越線に乗って1時間25分を要して、上越市春日山駅に到着したが、碓氷峠が健在であった頃の信越本線の面影は、長野〜春日山間には色褪せたローカル線でしかなかった。

◇市町村が各々わが町にのみ観光客の誘致を図る時代ではない。最早観光戦略はゾーンとして捉え、他市町村との連携の下に周遊型の観光客の呼込みが効を奏するものと確信する。須坂市の課題は、新幹線長野駅で降車した観光客を、如何に須坂に誘導するかであるが、歴史的古刹は須坂市にも多数ある。歴史的年代、鎌倉、室町、戦国時代、織豊時代、江戸時代別に分けた古刹の整理と、甲信越に跨る壮大な国盗り合戦を繰り広げた武田信玄と上杉謙信に関わる神社・仏閣への旅巡りに旅人は共鳴することを鑑みるとき、北陸線延伸のこのチャンスを逃がしてはならないと感じた。


(2) 石川県金沢市商工会議所。
   1)視察のテーマ:
@.北陸新幹線は、平成26年度末に長野から金沢まで延伸されることに伴う、金沢商工会議所の取り組みについて。
A.東海道新幹線の代替補完機能の早期実現性について。
B.他の交通機関との役割分担について。

   2)視察の評価
キ)視察日・視察時間:
平成25年8月9日午前9時から1時間30分。
ク)視察場所:
金沢商工会議所会議室
ケ)説明員の表示:
金沢商工会議所理事・事務局長 林 健治 氏
     仝     産業振興室長 林 重毅 氏
     仝   地域振興課係長 吉井 誠 氏
コ)研修内容:
◇金沢商工会議所が新幹線対策特別委員会を設置して取組んできた、活動経過の詳細な説明を受けた。

◇商工会議所が発議する4つの課題として、A)もてなしの意識啓発 B)新幹線車輌名称 C)在来線対策 D)まちなか誘導サインについての説明を受けた。

サ)研修のまとめ:
◇北陸新幹線が持つ東海道新幹線が地震等で機能を失った場合の「複数ルートによる代替補完機能」を重要視していることが窺えた。金沢市が北陸新幹線開通に寄せる期待は金沢商工会議所の「開業効果は絶大」と評価し、新幹線開業を見据えて、A)官民一体で建設を促進する。B)中心市街地の賑わいの創出。C)兼六園周辺の回遊性を高める。ことを課題として掲げ活動してきている。

◇新幹線開通後も、観光客の誘導と利便性を図るために、在来線等の連携活用を図る計画。

シ)視察から感じた須坂市の課題:
◇須坂市と金沢市との関係は決して深いものとは言えない。然し北陸の雄である金沢市に北陸新幹線が延伸すれば、金沢⇔長野間が66分で結ばれる。(現在の運行時間では、長野⇔直江津間を普通乗車。直江津⇔金沢は特急を利用しても3時間17分を要す。)小松空港が国内線更に国際線が盛んになり、日本海側の「羽田空港」の位置付けとなれば、金沢からの人の交流は、新幹線、北陸自動車道の相乗効果はこの須坂市にまで及ぶものと期待される。

◇東京⇔金沢間における長野駅は、地理的・地勢的に中心点としての役割を担うこととなる。その意味からしても須坂市の観光ゾーンの重要性は増すものと期待される。

◇金沢市の手前に「倶利伽羅峠」があるが、知る人ぞ知る「旭将軍・木曽義仲公が平惟盛と一戦を交えた地である。義仲公は東信で挙兵をし、北信、越後、越中の「倶利伽羅峠の戦い(砺波山の戦い)」で勝利し、その余波をかって入京を果したが、実はこの北信地方の武将も主要な役目を果していることを考えると、須坂市における旭将軍義仲公の歴史の掘り起しも喫緊の課題と言える。


(3) 福井県敦賀市。
1) 視察のテーマ:「駅周辺整備事業について」
 北陸新幹線は、平成26年度末に長野から金沢まで延伸され、更に平成37年度末までに金沢〜福井更に敦賀にまで延伸される計画である。これに伴う新幹線整備に伴う駅周辺整備事業の計画を学ぶ。

2) 視察の評価

ス) 視察日・視察時間:平成25年8月9日午後1時30分から1時間30分。
セ) 視察場所:敦賀市役所・議会会議室
ソ) 議長の挨拶を受ける:敦賀市議会議長 常岡大三郎 氏
タ) 説明員の表示: 敦賀市都市整備局駅周辺整備課課長補佐 森下正則 氏
                         仝         政策幹 中村和弘 氏
   同席者の表示: 敦賀市議会事務局・議事調査係 前田修吾 氏

チ) 研修内容: 
◇北陸新幹線は金沢駅〜敦賀駅間は延伸がされることが決定されており、このことに向けての「駅周辺整備事業」が向けられていることの説明を受けた。現在のJR敦賀駅の東側に新幹線駅が建設される予定である。

ツ) 研修のまとめ:
◇北陸新幹線が敦賀まで延伸(H37年度)すると、長野⇔敦賀間は2時間39分短縮され1時間44分でつながる。「福井を元気にする北陸新幹線」敦賀開業後の需要予測を見ても、現行(H17年度)29,600人/日が43,800人/日(H37年度)とある。開通後は、福井県に対する阪神地方から14,400人/日、中京地域から4,900人/日、そして関東地方から19,600人/」日と期待を寄せている。
◇北陸新幹線は、金沢市のレポートで記したように「東海道新幹線が地震等で機能を失った場合の複数ルートによる代替補完機能」を重要視しているが、茲敦賀から北陸新幹線は3ルートが議論されている。A)米原ルート案 B)湖西ルート案 C)小浜ルート案である。A)案の米原ルートは、他のルート案に比べると、建設費が少なくて済むことや費用対効果が極めてB)、C)案に比べると高いこと、敦賀延伸後に着工した場合に工事期間が短くて済むことからしても米原ルーとが湯力視されている。只、米原から大阪間が東海道新幹線と併用になるために、現在の過密ダイヤから大阪までの直接乗り入れが難しく、リニア中央新幹線が開業するまで北陸新幹線は米原止まりの構想である。

テ) 視察から感じた須坂市の課題:
◇敦賀市は北陸地方から京、阪神地方に抜けるための要所であることが今回の視察で初めて分かった。JR敦賀駅東側に広がるかっての貨車操作場の広さと、張り巡らされた線路の形状からしても、敦賀の港湾と鉄道との地形的価値が窺えた。敦賀は北陸新幹線が大阪駅まで延伸された後も、敦賀は北陸からの分岐点の役目を将来に亘って地勢的に担うことに変わりは無いと感じた。
◇港湾施設からの貨物引込み線は、現在は休止状態である。廃線とはしないで、引込み線をいつでも使えうる状況にして置く姿勢が素晴らしく感じた。須坂市等が選択した長野電鉄屋代線の廃線が悔やまれる。

(4) 視察テーマ:敦賀から米原ルートである北陸本線に乗車する。
 敦賀市から米原市まで、米原ルートを在来線に乗車し、車中から地形等を検分することとした。敦賀から暫くすると近江塩津間は、北陸本線は狭隘な山間部をトンネルを潜り、谷間を縫うように走った。この区間の北陸新幹線工事は、難工事が予想されると感じたが現代の工法からすれば一本のトンネルで解決できよう。琵琶湖東岸に出ると地形は米原まで極めて平坦であった。北陸新幹線が敦賀から大阪に向けての3ルートのうち、米原ルートが有力である理由も頷けた。

(5) 北陸新幹線が大阪まで延伸されたときの須坂市のメリット
1)  視察察のテーマ:米原駅〜名古屋駅経由在来線中央線、篠ノ井線経由で長野駅まで乗車して、将来、北陸新幹線大阪駅発東京行を、今回の行政視察ルートを回想想定しながら、現行の長野駅までの所要時間等を比較考察すると下記のとおりである。

T. 現在の東海道新幹線・中央線を併用した場合。
○新大阪駅〜名古屋駅まで新幹線所要時間  60分
○名古屋〜長野駅(中央線・篠ノ井線)   180分
○乗り換え時間 +)  30分
所要時間合計

 
4時間30分

U. 北陸新幹線が大阪まで延伸した場合。(佐藤議員私案)
○長野〜金沢間228km 新幹線所要時間 66分
○金沢〜新大阪356km 新幹線所要時間 103分
○乗り換え時間  乗り換え不用
 所要時間合計

2時間49分

V. T−U= 1時間41分

○北陸新幹線が大阪まで開通し、在来線である篠ノ井線、中央西線が現行の侭であるときは、我々は大阪以西に行こうとすれば、長野駅から北陸新幹線を利用して、大阪駅に出たほうが1時間41分も時間短縮ができることとなる。

    
3.総括
(1)  今回、訪ねた視察先の講師の皆さんは、熱く新幹線延伸に寄せる期待を語られた。日本海交易の見直しを須坂市議会で折りあるごとに熱弁を振るう我々の思いが、報われたようにも思える。東京〜長野〜金沢〜敦賀〜大阪間の北陸新幹線の運用が一日も早く実現することを願うものである。

 蛇足になるが「北国街道」とは、江戸から金沢までの街道をと思っていたが、資料によれば、「北国街道は、関ヶ原を出発点とし、越前(福井)、金沢(加賀)、越中(富山)、糸魚川、越後と北陸を横断して、津軽半島にまで及ぶ街道のこと。途中の糸魚川では松本に通じる松本街道と分かれ。越後高田から信州に入り、野尻、柏原、古間、牟礼、新町を経て善光寺を通り、丹波島、篠ノ井追分、矢代、下戸倉、坂木、上田、海野、田中、小諸、追分(軽井沢)で中山道と合流する。高田では、街道の混乱を防ぐため、新潟方面の道を奥州街道、善光寺方面の道を善光寺街道、富山・金沢方面の道を加賀街道と呼んで区別した。」とある。このことからも、東海道に並んでの北国街道であることからすれば、「長野新幹線」に拘ることの小ささを知った。「東海道新幹線」に対を成す意味で「「北陸道新幹線」で良いのではないかとしみじみと感じた。

     
(2)  今回の視察テーマ4:敦賀から米原ルートである北陸本線に乗車し、米原より名古屋に出て、中央西線に乗り換えて感じた県内の鉄道事情の課題解決策を示したい。
北陸新幹線の延伸により、かっての信越線の利便は増すが、長野⇔松本間の篠ノ井線は未だに殆どが単線であるためにスピードアップが図れず、普通列車は1時間15分も要す。松本⇔新宿間は特急あずさを利用しても凡そ2時間半を要す。更に飯田線の岡谷⇔飯田間は凡そ2時間半も要す。この中信、南信地域はリニア中央新幹線の開通によって変革するであろうが、リニア中央新幹線ルートから遠く外れた松本市や諏訪湖周辺市の鉄道事情は少しも変わらない。高速鉄道から取り残された状態の解消を、国や県はJR東日本並びにJR東海は積極的に図らなければならない。

 長野県内を縦貫する中央西線・篠ノ井線経由の名古屋⇔長野間の所要時間は、前述のとおり3時間を要する。県内の産業振興を考えると、中央西線は中津川駅より中央アルプスにトンネルを開けて飯田駅につなげ、飯田線の直線的整備を図り高速運行を可能にし、辰野から塩尻と結び松本に至る路線と変えることが時代の要請ではなかろうか。飯田市、駒ケ根市、伊那市の所謂伊那谷の発展は、塩尻市、松本市と、換言すれば伊那谷と松本平をつなげることによって、この地域は飛躍的に発展するだろう。更に、リニア中央新幹線が開通することを見越せば、松本⇔飯田間、岡谷・諏訪⇔甲府の時間短縮を図れれば、中信地方の人々が東京にも名古屋、大阪にも極めて短時間で行けることとなるだろうと感じた。

(3)  北陸新幹線が大阪駅まで延伸された暁には、長野駅から大阪駅までの所用時間が2時間も短縮されることを考えれば、北信以北の住民は、関西方面への所用や観光に「北陸新幹線」を利用するだろう。言いかえれば、関西以南の中国、四国そして九州の人の流れは北陸新幹線を利用して、この北信に移動されることが予想される。当須坂市も今から十分に政策を練ってこのチャンスをものにする備えが肝要である。

 北陸新幹線延伸による須坂市のメリットは単独ではありえない。何故ならば当市には新幹線駅がないからであるが、人の流れ、物流、交流を興すことに須坂市は積極的に加わることにより、県内に相対的に人や物流を誘い込み、その結果雇用の場が生じる共存共栄の精神こそが、須坂の産業や観光を救うと信じている。「善光寺さんに来たから、須坂にも足を延ばしてみよう」と言われる街にするには、須坂の先達が果した歴史的役割を大いに人々に熱く語り、須坂へのファンを創りださなくてはいけない。歴史の発掘が必要である。

(4)  行政視察は天候に恵まれたのは良いが、炎天下の行政視察は聊か熱中症気味のバテも感じた。然し、上越市職員とこれからの観光について、北陸新幹線に絡む信越連携構想を語ることが出来た。翌日、金沢商工会議所を訪ねたが、自由市場経済を拠所とする経営者の集まりである関係者と、北陸新幹線に寄せる民間活力の重要性と将来性について、真摯に意見を交わすことができた。更に同日、敦賀市役所にまで足を延ばして、敦賀市役所職員と、北陸新幹線延伸計画がH37年であるにも拘らず、既に12年もの先を見通しての、駅周辺の整備事業に絡む都市計画の有用性について、率直な意見交換ができたことは、有意義な視察の機会を得たと評価したい。温かく御教示頂いた視察先の関係各位に心から感謝を申上げる。

 平成25年8月18日記
須坂市議会議員  佐藤壽三郎